つい最近のことですが、当社で予定していた契約が破談してしまいました。
原因は、いよいよ契約が間近になった状況を察した別の買主が、売主に直接強引に契約を迫ったためでした。
売主さんは高齢者でした。
強引な口調や態度に押されてつい相手と契約の約束をしてしまい、当社に断りを入れてきました。
売主側の業者は手を引いてしまい、売主さんを守りきることができませんでした。
当社は強く抗議はしましたが、売主さんから直接依頼されているわけでもないので、この強引な契約を破棄させる立場にはありませんでした。
売主さんはこの非常に強引な相手と今後たった一人で契約・決済をしなければならなくなり、この先もたいへんな苦労が予想されます。
しかし、立場上わたしたちにはなすすべがありません。
常々考えていたことですが、高齢者が巻き込まれる民事事件は、これからどんどん増えていくでしょうし、今回のように民事事件に発展しないまでも、高齢者の心の弱さを突いたアンフェアな取引は増えていくことでしょう。それによって被害をこうむるのは、高齢者本人だけではないことを痛感せざるを得ない出来事でした。
そういう環境にあって、企業は高齢者との公正な取引のガイドラインを新たに作成しなければならない時代になってきたと思います。
まず、第一に高齢者の保護。
判断力の弱った高齢者の心理を突くようなアンフェアな取引から高齢者自身を保護しなければなりません。
第二に高齢者と契約する相手の保護。
高齢者を相手にした契約によって生じる新たなリスクを回避しなければなりません。今回の当社の買主さんのように、せっかく契約の準備をしていたのに突然キャンセルされてしまうと、場合によっては経済的な損失を負ってしまうこともありますし、まったく相手を陥れる気持ちがなくても、契約が成立した後でも、親族などからクレームがつくこともあります。
第三に仲介業者の保護。
今回の取引のように相手が高齢者だった場合、仲介人の責任は契約の遵守だけにとどまらない場合もあります。契約を守らせることによって、逆に非常に大きなリスクを負ってしまう結果もいろいろ考えられるからです。
・契約の内容が公平で、高齢者がすべてを理解していなければなりません。
・高齢者の近親者および利害関係人の合意があることを確認しなければなりません。
・高齢者の体調が急変した場合を想定した契約を行わなければなりません。
・すべての交渉をきちんと記録し、どのような揉め事が発生しても誰に対しても公正な証拠を提出できなければなりません。
・そして契約を高齢者の立場で判断できる近親者や第三者の立会いが必要です。
私設老人ホームや養護老人ホームに取材したところ、高齢者からなんらかの相談を受けた場合、近親者の合意は当然ですが、それが得られない場合もあり、そんな場合には弁護士などの立会いの上で契約を行うなどの措置を取っている場合が多いそうです。
その弁護士も老人ホームの顧問弁護士を使わず、弁護士会などから推薦で第三者的な弁護士を指名してもらう措置を取っているところもあるようです。
不動産業界の場合、司法書士に同行してもらい本人の意思確認を行ったり、場合によっては写真や録音テープで証拠を残すなどの措置が一般的です。もちろん、被相続人や利害関係人の同意書や立会いを求める場合があります。ただし、残念ながらそれらの保全は高齢者そのものを守るというよりも、自社や契約相手を守ることに傾倒しているきらいがあるのも事実です。
リバースモーゲージなど、高齢者保護の制度が新たな係争の種になっていくことも十分想定されます。
高齢者の方や高齢者から相談を受ける立場の人から、全幅の信頼を得ることができるかどうかが、今後の大きな課題になってくると思います。
これからは、高齢者に対してどのような対処をするのか明確なガイドラインをあらかじめ示し、そのガイドラインに沿った取引を完璧に行うことができることが重要になるでしょう。
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この世は不思議に満ちている